2016年1月20日水曜日

湯島のスナック


行きつけのスナック。男なら誰もが欲している。男の子がオトナになり、社会人になって何年か経つと「スナック」という謎の世界に俄然興味が湧いてくる。

若い頃、「オレの行きつけのスナックに行こうぜ」などと友人に言われると、途端にそいつが大人っぽく見えた。

実際に行くと、ほこりっぽい店内の雰囲気と得体の知れないオバチャンのパワーに圧倒され、オトナの世界の奥深さを思い知らされた。

それでも誰もが、いつかはきっと自分がイメージする「いい感じのスナック」に巡り会えると信じて生きている。ちょっと大袈裟か。。。でも、それが大人の男社会の真実である。

で、私も「いい感じのスナック」を探し続けてもう四半世紀ぐらいになる。いまだに見つからない。

そもそもスナックの定義って何だろう。クラブやキャバクラ、バー、パブ、ラウンジ等々、夜の世界は分かったようでよく分からないジャンル分けがされている。

一応、接客する女性がカウンターの中にいるのがスナックの基本らしい。カウンター以外にボックス席があって、女性が横に座って客と一緒に飲むようだとミニクラブやラウンジと称するみたいだ。

私もクラブやキャバクラではなく、そこそこ手軽で小さな店はいくつか知っているが、「スナック」と呼ぶような雰囲気とも違う。

まあ、スナックの定義自体が私の中で曖昧だから困る。私の勝手なイメージでは銀座や六本木はダメである。もっと「土着的東京」を感じる立地が望ましい。

新橋、赤坂、はたまた荒木町あたりならシッポリ落ち着けそうだ。いや、どうせならもう少しディープ?な場所も悪くない。目指すべきは「湯島」だ。

先日の土曜日、午後の遅い時間に湯島天神の周辺をぶらぶらした。亡くなった祖母が「湯島の白梅」という歌を口ずさんでいたこともあって私にとって郷愁を誘う場所である。たまに散歩したくなる街だ。

ついでに言えば、私の大学合格祈願に出かけた私の母親が湯島天神の境内で見事にスベって転んだというシュールな事件?も強烈に印象に残っている。

街のジャンル分けみたいな話になると湯島と上野は大ざっぱに一括りにされる傾向がある。でも、あくまで湯島と上野は別モノだ。

上野は昔から東北方面から東京にやってくる人達を迎える玄関である。だからオープンマインド?な繁華街が形成されている。

それに対して湯島は良くも悪くも昔ながら東京人の閉鎖性を表しているような気配が漂っている。

勝手なイメージだが、上野がキャバクラやフィリピンパブの宝庫なら湯島はスナックの宝庫である。

湯島駅や天神下あたりから上野広小路までのエリアは独特だ。クルマに乗って幹線道路を通過するだけでは見えないディープな世界が広がっている。

チェーン店に支配されている池袋や新宿と違って湯島界隈は個人店が元気なのが特徴だ。こういうエリアをウロウロするのはとても楽しい。

渋い店構えの居酒屋、小料理屋、焼鳥屋、そして、やたらと大量に?スナックが林立している。まさに密集地帯。密林である。いろんな魔物が生息していそうである。

一見でふらっと入るには厳しい。そこがまたスナックに憧れる人間にとっては堪らない魅力だ。謎めいている。

この日はスナック探検が目的ではなかったが、陽も暮れてネオンが灯り出すと、スナックへの憧れ?が盛り上がってくる。

でも、一切情報は無いから、仕方なくドトールで歩き疲れた足を休める。お茶だけ飲んで帰るのも淋しいから近隣でウマいものを食べることにする。

で、某トンカツ屋さんに行く。カツの前にカキフライなどでグビグビ飲む。ひょんなことから店主と昭和の夜遊びの話などで盛り上がる。お酒もサービスしてもらって程よく酔う。

その後、上機嫌になって少し歩く。頭の中で「湯島いいねえ~。湯島のスナックに行きたいぜ~」とつぶやく。

そんな時、どこからか私を呼ぶ声がした。スナックの神が現れたのだろうか。馴染みのない街だから知り合いはいないはずだ。

声の主は幼稚園からずっと同級生だった旧友である。やはり母校の先輩と連れだって、たまたま近くで飲んでいたようだ。奇遇である。

これから別の先輩が合流して「スナック」に行くらしい。奇跡のような話である。迷わず合流。人生初の「湯島のスナック」が現実のものになる。神様のいたずらである。

雑居ビルの2階。怪しげな扉には「会員制」の文字。うん、しびれるほどにスナック感むんむんである。

ママさんが一人で営むカウンターだけのスナックだ。壁には無造作に水素水の宣伝ポスターが貼ってあったり、カラオケは1曲づつ有料だったり、適度な場末感に感激する。

歌わないといけない。何を選ぶべきか。真剣に悩む。湯島のスナックである。“ゲスの極み”や“セカオワ”を熱唱する場所ではない。歌ったことないけど。。。

菅原洋一あたりが無難だろうか。熟慮の末「テレサテン」に決めた。歌うは「別れの予感」である。♪泣き出して~ しまいそう♪である。

「湯島のスナックでテレサテンを歌うオレ」。なんとまあ素敵なことだろう。無事にオジサンになれた証である。正しくオジサンとして発育できたことを神に感謝する。大興奮である。

その後、やはり中学、高校の4つ上の先輩が経営する近くのバーに繰り出す。初対面だが、その先輩の存在はもともと知っていたし、共通の知人もたくさんいるので、早々に打ち解けさせてもらった。

どうもこの先輩は湯島界隈でやたらと顔が広いらしい。ますます私の「湯島人生」が一気に開けていきそうな気配だ。

で、その後は、いわゆるラウンジみたいな店に行って改めて飲む。夕飯の後にひょんなことから3軒のハシゴ酒だ。気付けば湯島に散歩に来てからもう10時間以上が経過した。長い散歩である。

「スナック?いっぱいあるよ、動物園みたいな店ばかりだけど」。

この日付き合ってくれた旧友のセリフだ。実に興味深い。彼は近いうちに3度目の結婚をするらしい。そんな突き抜けた彼からの湯島情報にもこれからは頼っていこうと思う。

「夜の蝶」ならぬ「夜の毒蛾」を求めてさまよう日が続くのだろうか。

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