2015年8月10日月曜日

ホテルオークラ


この8月いっぱいでホテルオークラの本館が歴史に幕を下ろす。なんとなく淋しい。

東京の名門ホテルといえば帝国ホテルにオークラである。外資系ホテルが次々に参入した今もこの現実は不変だと思う。

多分に東京人としての思い込みもあるのかもしれないが、スタイリッシュな外資系ホテルがどう頑張っても日本の老舗名門ホテルの空気感にはかなわないと思う。


オークラ本館のメインロビーの佇まいは、まさに昭和のニッポンの落ち着きを体現している。建築物としての評価も高いため海外からも取り壊しに異論が出ているそうだ。

まあ、実際に見てみれば、やはり古めかしい感じは否定できない。最新設備を誇るカッチョいいホテルがどんどん増えている東京で勝負するには分が悪い。建て替えも当然の選択だろう。


客室サイズもベーシックな部屋だとビジネスホテル並みだ。40平米以上が普通になっている高級ホテル事情にあって競争力は無い。

狭い部屋は安売りするしか道はないわけで、そうなればホテル全体のイメージが低級路線になってしまう。昭和基準のままで維持されてきた名門の厳しい現実だろう。

レストランや宴会など宿泊以外の部分にも独特な存在感があるのが老舗の名門ホテルだ。

ホテルに行きまくっているわけではないので、これも多分に勝手な先入観だが、近年増えてきた外資系のホテルは食事の面で高揚感が乏しい。

値段や雰囲気は最高級でも、帝国やオークラが培ってきた「伝統」みたいな部分とは違う。大げさに言えば「物語性」が感じられない。

オークラもレストランの評判は高い。ついでに言えば、フレンチトーストが名物だったり、夏の冷やし中華にも根強いファンがいる。そんな細かいメニューまで熱く支持されていること自体が「物語性」だろう。

帝国ホテルにしても数々の名物料理が知られているが、それ以外にルームサービスで驚かされたことがある。

随分と昔の話だが、部屋に持ってきてもらったピラフが目ん玉飛び出るほど美味しかったので、その後、ホテル内のどこのレストランに行けば同じモノが食べられるか調べてみた。

結果、ルームサービス専用の一品だったということが判明。私の中で「やすやすとありつけないシロモノ」という物語につながったわけである。

オークラに話を戻す。四半世紀以上も前の話だが、私の兄がオークラで披露宴を行った。若かった私は、なんでそんなコンサバな場所を選んだのか不思議だった。

そう感じたこと自体が若さだったのだろう。新しいものやハヤリものの曖昧さや頼りない感じに気付かなかったわけだ。

今ではどう逆立ちしたって若者ではないから、伝統が醸し出す凜とした空気のほうが居心地も良いしかえってスマートだと感じる。

兄の結婚から数年後、若かった私も披露宴とやらをやる必要に迫られ、某外資系ホテルを選んだ。そういうのを選ぶことがオシャレ~だと思っていたのだろう。

いま、そのホテルは既に無い。違うホテルとして営業している。しょせん、地に足のつく前に撤退しちゃうようなホテルだったわけだ。

私もいろいろ「撤退」するハメになったから似たもの同士みたいなものである。やはり目先しか見えないとダメだ。成熟には程遠く、ただ無駄だけが残る。

やはり、地に足のついた雰囲気、浮き立っていない落ち着いた感じは、一朝一夕に生まれるものではない。

ちなみに多くの高級ホテルでは莫大な数の客の名前を覚えているスーパーホテルマンがいて、他のスタッフも含めて客を個人名でもてなすように心がけている。

以前、某ホテルで名前で呼びかけられて何だかコソばゆい思いをした時期があった。頻繁に宿泊するような上客ではなかったのだが、バレーパーキングをマメに活用したせいで名前を覚えられたわけだ。でも、あれもTPOによってはビミョーである。

真面目じゃない目的?でホテルを利用することだってあるし、誰かの目に触れたくない場面だってある。そんな時に名前で呼ばれたらオドオドしそうである。

こっちが問題なくても同行者にとってはお忍びというケースだってある。ホテルには様々な人が出入りしているから、ロビーに足を踏み入れた瞬間に、まったく知らない同士のフリをする男女も珍しくない。

まあ、私の場合、独身貴族だからそんなスリリングな展開には縁がないが、独身だと思っていた相手がヤクザの情婦や誰かの奥さんだったりするかもしれない。そんな相手と客室階に行くエレベーターに乗るところを見られたら問題である。

そういえば、「別れさせ屋」で工作員をしているという美女と酒を飲んだことがある。エゲつないやり方で人を陥れる話が世の中にはゴロゴロあることを知ってビビった。それ以来、世の中が恐ろしくて仕方がない。

ウソです。でも、ちょっとホントです。

思いっきり話が逸れてしまった。最近、しょっちゅう話が脱線する。脳ミソが腐ってきたのだろうか。

「ホテル」のことを考えると、なんだか私の頭の中にさまざまな経験や妄想や願望なんかが入り交じって混乱するのかもしれない。

オークラの話だった。とりあえず、今月で見納めのメインロビーの佇まいを見に行くことをお勧めします。

平日の空いている時間帯なら昭和にタイムスリップしたような気分に浸れます。

2 件のコメント:

道草人生 さんのコメント...

富豪記者殿
昭和末期から平成初期にかけて幾度か利用しましたが同感です。当時はなんと言うか、バブル的な華やかさが感じられない事が若い自分には物足りなく思えていました。しかしジャパンアズナンバーワンと言われた絶頂期にVIPを迎える迎賓館的な役割を果たすにあたり、地に足のついた落ち着いた雰囲気は、絶対に必要でそこから生まれた風格だったんだなあと30年近く経って思います。あのゆったりとした本館ロビーがなくなるのはもったいない気がしますか、単なる設備の現代化だけではなく、あのロビーに流れる気品が引き継がれることを期待したいですね。

富豪記者 さんのコメント...

道草人生様

確かに若い頃は、品格とか風格、気品といったものよりコケおどし的な華やかさに魅了されてしまいがちですよね。

オークラの改装が変な方向にいかないように願いたいです。