2014年2月24日月曜日

バリ島の潜水事故


連日ニュースで取り上げられたインドネシア・バリ島の潜水事故。漂流した女性7名のうち、5名が奇跡的に生還した。

私が一番好きなリゾ―ト地がバリ島だ。これまで10回以上は潜水目的で出かけた。広い島のアチコチにダイビング適したエリアがある。

今回事故が起きたのはバリ島の東側の沖に位置するヌサペニダ周辺の海域。個人的には15年ほど前に一度潜っただけだ。いつも別なエリアで潜っている。

理由は単純。あのエリアの海が怖いから。それだけ。

当時からそこそこの潜水キャリアはあったが、非常に危なっかしいポイントだと感じて、それ以来何度バリ島に行ってもヌサペニダ周辺は避けてきた。潮流は複雑で、水温の変化も激しく、以前から潜水事故が起きていることも聞いていた。

とはいえ、バリ島のダイビングエリアの中で特に人気の場所でもある。観光シーズンにはレジャーダイバーが連日押し寄せる。初級者レベルのダイバーもコンディションによっては潜っている場所だ。

そういう点では今回の事故はアンラッキーではある。でも、知る人ぞ知る複雑な潮流のポイントだから、他のエリアよりもトラブルのリスクは高かったのだろう。

私の場合、じっくり水中写真を撮影したいから、流れに身を任せるドリフトダイビングはあまりやらない。ラクチンだけど、小さい魚をじっくり撮ることは無理だし、大物に遭遇しなかったら退屈だからいつもパスしている。

激しい潮流は、どんなに経験を積んだプロダイバーだろうとまったく歯が立たない。海猿レベルだろうと関係ない。自然の力は圧倒的だ。何といっても流れ自体が目に見えないから不気味だ。

水面や水底は流れていないのに、中層だけ激流という不思議なケースもある。もう20年以上前だが、モルディブで潜っていた時にこのパターンにやられて私一人だけはぐれてしまったことがあった。

水面に浮上したらダイビングボートは、はるか彼方に停泊していた。運良く、ベタなぎ状態だったから、すぐに見つけてもらって問題はなかった。

パラオで潜った時も似たような経験をした。激流にあっという間に身体をもっていかれた。

当時は、はぐれた時に水面で見つけてもらうためのフロートを持っていなかった。仕方なく、足ヒレを外して頭上に掲げてボートに見つけてもらった。

バリ島の事故では漂流したダイバーはフロートを揚げていたのに発見されなかったそうだ。ちょっと信じがたい。余程コンディションが急変したんだろうか。

ボートの船長が警察に逮捕されたから、無責任にいなくなっていたという見方も出ている。そうだとしたら人災だ。被害にあわれた方々がお気の毒で仕方がない。

今回の事故では、現地のダイバー有志も必死に捜索活動に当たり、その結果、5人が救出された。救助チームのまとめ役としてニュースにも登場していた女性インストラクターは私が以前バリ島で何度もお世話になった人だ。

非常に真面目で慎重なベテランインストラクターの彼女が話していた内容から察すると、事故に遭ったダイバーグループが無茶なことをした可能性は低い。

やはり、突発的な天候急変などの不運が重なった末の悲劇だったのだろう。すなわち、どんなレベルのレジャーダイバーにも起こりえる事態だ。

私の場合、幸か不幸か、漂流までは至らなかったが、モルディブとパラオでの「流され体験」のおかげで、潮流が単純に一定方向に流れるようなポイント以外ではドリフトダイビングを避けるようになった。

結果、もうずいぶん長いこと大物に遭遇するダイビングには背を向けたことになった。自分で選択したスタイルだから時々ジレンマも感じる。でも、やはり海は怖いし、のんびりまったり潜ってる方が性に合っている。

今まで、なんとか無事に過ごせてきたのもこの選択がすべてだと思う。世界のどこのダイビングショップも、こっちがベテランだと知ると、深場で流れも強いダイナミックなポイントに案内してくれようとするのが普通だ。若い頃はそうした場所にもガンガン潜ったが、ここ10年、いや15年ぐらいは穏やかなポイントを中心に潜っている。

ハードなポイントに行きたいなあと思ったこともあったが、いつもパスしてきた。チキンダイバーみたいだが、たいてい一人旅だったし、言葉もろくに通じないガイドダイバーとのやりとりも面倒だったし、何かと緊張を強いられてきたから、水中で強いストレスを受けるようなことはなるべく避けてきた。

水深も自主規制している。過去にボルネオの海の水深23メートル地点でトラブルを起こして、本気で怖かったことがあった。ダイビングをやめたくなったほど恐怖を感じた。一応、ディープダイバーライセンスも持っているが、それ以降、基本的に自分のMax水深は初級者に毛の生えた程度の23メートル程度を目安にしている。

もし私に気心の知れた潜水仲間がいて、いつもそのメンバーと一緒に出かけていたら、きっとこんな呑気なスタイルで潜ってはいられなかったのだろう。あまり社交的じゃなくて良かったのかもしれない。

ダイビングではとにかく流れが一番厄介だ。流れが複雑なところでは、タチの悪いダウンカレントが発生することもある。文字通り、上から下への流れだ。

これが強いと、足ヒレで頑張ってキックしても身体が上に行かない。口から吐く泡は普通は上に向かうのだが、真横に流れたり、激しいときは下に向かって泡がこぼれる。

少し横方向に移動するだけで、突然流れがないエリアに逃げられることもあるのだが、さすがに慌てるし、ちょっとしたことでパニックを起こしそうになる。

厄介極まりないが、魚群や大型の魚は流れがある場所に集まるので、どうしてもリスクは避けられないわけだ。でも、予想外の流れには絶対勝てないし、外洋ポイントで漂流しちゃったら絶望的である。

ダイビングに慣れてくると激流ポイントに大物を見に行きたがる人は多いが、場所が場所だけに、何かあったらシャレでは済まないことは再認識したいものだ。

私自身、そろそろ南国での潜水旅行を企てようとしていたので、今回の事故を教訓にして臆病すぎるほど臆病になってプランを考えようと思う。

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