2012年10月26日金曜日

名言

名言とか金言に意識が向くようになったのはいつ頃からだろうか。若い頃は、ちっとも響かなかった言葉がいつのまにか身に染みるようになってきた。

といいながら、座右の銘は無いし、好きな名言があるわけでもない。ふとした時に見聞きする含蓄のある言葉に深くうなずく場面が増えてきた。

先日も、くだらないことでウジウジしていた私の脳みそを心地よく刺激する名言を知った。

“The darkest hour is just before the dawn.”

夜明け前が一番暗い。すなわち、事態が好転する直前がもっとも苦しい、あと少しの辛抱だといったニュアンスだ。

文豪・吉川英治の「朝が来ない夜はない」に近い雰囲気だが、それよりも「もう少しだけ頑張れ」みたいな“あと一歩”感が強調されていてグッときた。

そんなことを書いてみるとインテリっぽいが、なんのことはない。今日は、最近あらためてハマっている「寅さん」の名言集を紹介しようと思っている。

最近、「人生に寅さんを」という洒落た本を買ってパラパラと眺めている。実に楽しく、また役に立つ。


それ以外にもどこかの評論家が書いた「へたな人生論より寅さんのひと言」という文庫本も読んだ。まさにタイトル通りの面白い話が満載されていた。

「生きてる? そらあ結構だ」

こんな「金言」に胸をうたれた。チト大げさだが、実に深いセリフだと思う。不慮の死、無念の死などという悲劇を目の当たりにしたり、自殺予備軍が増えている世相にあって大いにうなずきたくなる。

「生きてるだけで丸儲け」とか沖縄の「命どぅ宝」なんかもそうだが、元気に暮らせているなら細かいことでクヨクヨするなという考えだろう。ついつい見失いがちな人生の真理かもしれない。

「幸せのかたまりみたいなツラしやがって、
 不幸せぶるなって言ってるんだ」

これも初期の「男はつらいよ」で寅さんが放つ言葉だ。誰にでも思い当たることはあるのではないか。ちょっとしたことで落胆し、この世の終わりみたいに落ち込む時、その原因が実際には些細なことであることは珍しくない。

世界を見渡せば、あり得ないほど悲惨な不幸はいくらでも転がっている。些末なことで大げさに自分を不幸だと思うことの愚かさを痛感する。

「おてんとうさまは見ているぜ」

単純明快だが、古き良き時代の日本人の行動規範だ。いまの時代、こすっからくインチキな行動に逃げたくなる場面は多い。子どもよりも大人のほうがそんな誘惑に悩まされる。お天道様。日本古来の土着宗教のようなこういう規律性を忘れたらいけないと思う。

「理屈を言うんじゃないよ!
 大事な時に。」

これこそ寅さんの真骨頂だろう。良くも悪くも感情の赴くままに生きる寅さん。でもその心の熱さこそが正しいこともある。冒頭で紹介した寅さん評論本でも、寅さんの魅力は「非論理性」にこそあるという趣旨が書かれていた。

論理的な思考こそが絶対とされ、敵対する相手との間でも論理的な矛盾や破たんだけをあげつらって勝った負けたと一喜一憂している現代人だから、寅さんの小気味よさに拍手喝采を送りたくなるという分析だ。まさにその通り。人間、正論だの理屈だけでは生きていけない。

もう40年以上前の第1作で寅さんは金言を言い放っている。そののち「妹のさくら」と結婚する独身時代の「博」に向かって言い放つセリフだ。

「ざま見ろ、人間はね 理屈なんかじゃ動かねえんだよ」。

ある意味、寅さんは一貫している。ぶれない。だからいつの時代にも根強い支持があるのだろう。

色恋に関しても無数の名言を残している。

「男が女に惚れるのに歳なんか関係あるかい!」

以前にもこのブログで書いたことがあるが、知床を舞台にした名作でのワンシーンだ。竹下景子扮するマドンナが父親役の三船敏郎の恋心を寅さんにグチる。寅さんはキッパリこのセリフを言う。実に小気味よく、かつ真実である。

またある時はいともサラリと次のようなセリフを言う。

「貧しいね 君たちは。
 二言目にはカネだ。
 カネなんかなくたっていいじゃないか、
 美しい愛さえあれば!」

現実の社会ではそうはいかないが、それを本心から言ってのける寅さんの心意気が素晴らしい。私自身、ついつい全財産を投げ打って孤高の道を走り出したくなる(そんな財産なんて持っていないが・・・)。

「恋というものはな、長続きさせるためには、ほどほどに愛するということを覚えなきゃいけない」。

なかなか含蓄に富んだセリフだ。寅さんの場合、そんなこと言いながらちっとも本人がそれを実践できないところが良い。

支離滅裂と言ってしまえばそれまでだが、それこそ理屈ではない。人間らしく生きていれば、そうそう論理的に物事を判断できない。そんな適当な感じも寅さんの場合、ぶれずに一貫しているから潔い。

思うがままに好き勝手に、ぶれずに気楽に生きていきたいものだ。

書いていて気づいたのだが、今日の話は結局、寅さんを全肯定することで、自分のワガママさを肯定したくなっているだけだろう。

まあ、いいか。それも人間らしさだ。

3 件のコメント:

中洲クリニック さんのコメント...

世界に数々の名言はありますが、
寅さんの言葉は胸に響くものがありますね。
葛飾柴又に行ってみたいです。

富豪記者 さんのコメント...

中洲クリニックさま

コメントありがとうございます!

年齢と共に寅さんの言葉がしみてきます。

柴又散歩は寅さんファンには欠かせませんね!

匿名 さんのコメント...

富豪記者さま

振り返って思うことは多々あり、取り戻したい時間に
苛まれています。何事もほどほどが大事なのでしょうか?
まだまだ未熟者わたしです。