2012年2月29日水曜日

増税の正体


一見、とっつきにくいからワイドショー的には盛り上がらない「社会保障と税の一体改革」問題。当初は「税と社会保障のーー」と表現されていたものが、安易なポピュリズムで看板替えして現在に至っている。

増税イメージを払拭したい思惑で「一体改革」と強調されてきたわけだが、お粗末な、というか何ともブザマな事態に陥り始めた。

「一体」改革と言いながら、消費税増税関連法案などから、社会保障改革法案の一部を切り離す方針を政府が打ち出した。

おいおい、それじゃあ単なる「純増税法案」になってしまう。馬脚を現すというか、稚拙というか、インチキ丸出しというか、実に締まらない話だ。

「カレーライスのカレー抜き」みたいなトンチンカンぶりだ。

増税に取り憑かれた政権だから、理屈も何もあったものではない。

というわけで、今日は久しぶりに税金の話を書く。タチの悪い世論誘導と現実を見ない一部階層へのイジメが酷いから、どうしても書きたくなった。

どうも最近の税・財政をめぐる世論や議論の進み方に違和感を覚えて仕方がない。

消費税増税やむなし。既にこんな空気が支配的だ。確かに足し算引き算すれば、財政状況が危機的状況なのは猿でも分かる。消費税の税率アップは一種の必然ではある。

問題は、その前提となる現状のいびつな税制にフタをしたまま話を進めようとしている点だ。増税するにしても、変な制度の上に乗っけるようでは、いびつさが増すだけだろう。

いきなりだが、「税金」って何だろう。罰金でもなければ寄付金でもない。言うなれば、国民が国民でいるための会費だ。

負担額の多寡はあっても「等しく皆が負担する」という根本的な定義が貫かれて然るべきだと思う。

現行の所得税制度の下では、まっとうな大学を出て、名の知れた企業に就職して、家庭を持って、子供を作って、クルマも持って、マイホームまで持てるような人でも、所得税をろくすっぽ払わない事態が生じる。

基本的な課税最低限は、300万円台前半だったはずだ。それだって考えてみればどうなんだろう。ガッポリというわけにはいかないだろうが、少しぐらい負担したっていだろう。

年収500万円を越えていても、各種控除の恩恵を受けて、所得税が数万円なんて例は珍しくない。

財務省・国税庁の統計によると勤労者の平均年収は400万円台前半。すなわち、家族構成とか控除の有無にもよるが、平均的な年収階層の人でも、大げさに言えば、ロクに所得税を納めなくても済んでしまっている。

そのしわ寄せは、中堅・高所得者層に集中する。ひと握りの所得階層の人が所得税の大半を負担していること自体、歪んだ話だと思う。


所得税という言葉自体がインチキだ。「一部の人への罰金」と称した方がよほどしっくりくる。

で、そんなヘンテコリンな状況でも、政府としては、圧倒的多数である「平均的な階層以下の人々」に選挙でおもねることしか考えないから、所得税の歪みを放置したまま消費税に活路を見出そうとしている。

消費税は、ビンボーだろうとヤクザだろうと、お金が動けば税収につながるわけだから、国家にとっては実に取りやすい。

ちなみに中堅、高所得社会層の人達からも比較的消費税は嫌われていない側面がある。なぜなら単一税率が持つ公平性に、日頃、偏った負担を強要されている人々が魅力を感じるからだ。

所得税、贈与税、相続税あたりでは累進税率というワケのワカラン理屈で、収入が増えれば同じ税制なのに高税率が適用される。この構造的な不公平感に比べて、消費税は一律税率だから、なんとなく「信用できるヤツ」みたいな印象を持たれているわけだ。

低所得者に不利になるという、いわゆる「消費税の逆進性」なんてものにしても、屁理屈であり金持ちイジメのための、まさに「ためにする議論」だと思う。

同じクルマを買うにしても、低所得者が選ぶクルマとお金持ちが選ぶクルマは、おのずと価格自体が大きく違う。一律税率だからといって、充分、応能負担による税負担格差は生まれる。

購入するもの、消費するものの価格自体が厳然とクラス分けされている以上、逆進性うんぬんはくだらないこじつけにも見える。充分公平だ。

そんな事情もあって、中堅、高所得者層にとっては、消費税は「悪くない税金」なのだが、これは、あくまで、所得税とかの不公平是正がなされればの話。いわば条件付き支持でしかない。

いま、“のだめ政権”が進める消費税の増税は、単なる「純増税」であり、社会保障制度の見直しなども含めれば、純粋に、一定収入以上の階層だけを狙い打ちにした「取れそうなところから取る思想」に基づいた愚策だ。

しょせん、労働組合の支持を母体にする政権だけに、低い方からの負担増はまったく発想にない。「低い方」といっても、冒頭に書いたように、「普通の人達」からも負担を求めない摩訶不思議な感覚だ。

弱者を救済するのは政治の使命だ。そんなことは百も承知だが、所得階層で見れば、「普通の人」までを弱者として扱うわけだから馬鹿げている。

「税金って何だろう」と言いたくなるのはこのあたりの歪みがひどいからだ。そこそこ以上に稼いだ人への罰金にも似た性格に成り下がっているのが実情だろう。

消費税の税率が上がれば、所得階層にかかわらず税金を負担するという本来あるべき「税金の正しい状態」に近づくことになるわけだが、ここでも民主党政権のアホなおもねりは暴走する。

「低い方」の所得階層には消費税の増税分を還付だか給付だかによって、返しましょうという制度を盛り込む予定だ。

「普通の人」を含む収入が多くない人達には意地でも税金を納めさせない政策だ。こうなると「税金」はやっぱり稼いだ人への「罰金」と読み替えたくなる。

もちろん、低所得者層への配慮は政策上必要だろう。そのためには、食料品等の生活必需品へのゼロ税率導入で済む話だと思う。

ごくごく平たく書いてきたが、これが既定路線化されている増税の真相だ。言うなれば「増税の正体」だ。税金を「頑張っている人への罰金」と定義する愚策だ。


ついでにいえば、そもそも中堅・高所得者層と言ってひとくくりに敵対視の対象にされることもおかしい。

新しい子ども手当なんかもそうだが、年収1500万円とか2千万円あたりで、世の中のすべての制度は「逆足キリ」されるのが常だ。

それ以上の階層は一律で、本来受けられるべき政策的な恩典を奪われる。年収1500万円の人でも、年収10億円の人でも同じ扱いという点がケッタイだろう。

たかだか年収1500万円ぐらいで「金持ち」と言えるだろうか。このあたりの収入階層が実社会では踏ん張っている人達だと思う。にもかかわらず、スーパーリッチと同じ範疇に加えられ、行政サービスのカヤの外に置かれる。

バカみたいな話だ。

多勢に無勢とはまさにこのことで、所得階層が「普通の人」以下が大多数を占める現状では、こうした中堅所得者はただ泣き寝入りするだけ。

メディアにしても、しょせんは大衆受けの良い切り口でしか物事を語らない。その結果、社会を支える中心的役割を果たす階層がイジメられている。

年収ウン億円クラスのスーパーリッチともなれば、海外移転も簡単だし、節税策の引き出しもたくさんある。

誰もが名前を知るようなクラスのお金持ちの中には、給与なんてもらわない人達も多い。無駄に高額な所得税を払うよりも、すべて収入は株主配当として、給与よりも低い税率を適用するわけだ。

ビンボー優遇、スーパー金持ち優遇の狭間で痛い目に遭っているのが中堅所得者層だ。主に中小企業経営者がこの階層に該当する。

日本の活力を支える中小企業をこんな形で冷遇し、イジメ続ければ国の活力なんて無くなって当然だと思う。

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