2009年5月1日金曜日

世襲

いまさら話題を集める政治家の世襲問題。自民党も民主党も一定の制限策をまとめ、世論におもねろうと必死だ。

二世、三世じゃないと政治家になれない現実は確かに異常だが、立候補の制限という次元で解決可能な問題ではない。

“苗字の力”でどんなに素人だろうが、立候補すれば悠々と当選し、その後は、知名度に注目する権力者によって引き立てられ、通常より早く花形ポストに就く。これが最近の傾向だ。

小渕少子化担当大臣の例が一つの分りやすい事例だろう。

さて、世襲ばやりの理由はなんだろう。当選しやすいからというだけでは説明がつかない。オイシイ利権にありつけるからという理由も陣笠議員には当てはまらない。

要はお金だ。世襲議員とカネといえば「政治資金」が大きなカギを握る。

無名の候補なら、当選して力を付けていくまで政治資金はカツカツ。世襲議員はこの点が大きく違う。

先代の政治資金が引き継がれるため、素人の頃から潤沢な資金にありつける。代々続く有力議員の家系ともなれば、政治資金団体の資金力も知名度に比例して大きくなる。このカネは政治家稼業を引き継がなければ現実には受け継げないため、いやでも子供が地盤を引き継ぐことになる。

政治資金は税金がかからない収入であり、使い道も海外旅行だろうが、料亭での会食だろうが、「政治活動のための支出」と主張できれば何でもOK。

もちろん、政治にはお金がかかるが、代々蓄積された政治資金を自由に使える魅力は大きい。

一般的な感覚では、親が残した経済的な価値のあるものはすべて相続税の対象になる。誰も働き手がいない時代遅れで敬遠されがちな借金まみれで倒産寸前の零細事業であっても、オーナー経営者が亡くなれば、子供としては相続税問題を心配する。

政治資金は一応、「政治資金団体が持つ政治活動のためのカネ」なので、団体の責任者が変わったところで、個人の死を原因とする相続とは無関係ということになる。

グダグダ書いてきたが、ごく簡単に言えば、「オジイチャンやおとうちゃんが長年働いてきたことで集まった膨大なお金を税金の心配なしで子供が受け継ぐ」という図式。

この図式がある以上、世襲議員が減るはずはない。同一選挙区からの立候補制限なんてまるで無意味。知名度があれば隣の選挙区から出たって有利には違いない。

元の選挙区からは息のかかった人間を立候補させることで、かえって名門政治家一家のパワーが拡大することもありえる。

「政治資金の引き継ぎ」。この部分抜きの世襲問題議論はまったくといっていいほど不毛だ。もちろん、ウマ味を知っている政治家自身が議論しているわけだから、この部分に焦点が当たるはずもない。

実は、安倍元首相が「お腹が痛い」と言い出して突然首相の座を下りた当時、健康問題とは別の辞任理由として一部で話題になったのが相続税をめぐる“好ましくない噂”だ。

わが社でも、“噂”に関する解説記事をホームページ上に期間限定ニュースとして掲載したところ、さすがに普段とは比べようのないアクセスが寄せられて驚いたことがある。

この時の話も結局は「政治資金の相続」につながる話だった。いまさら世襲制限の議論が政治資金問題抜きに進んでいることは「なんだかなー」という印象しかない。

わが社の『納税通信』は、他の税務専門誌とは違い、税金の単なる解説や広報ではなく、時節に応じた諸問題の発掘・追及も重要テーマに位置付けている。

「税金という観点から世相の裏側が読み取れる」。読者から寄せられるこうした声が記者一同の励みになっている。

●●連休中はブログの更新をお休みします。5月7日から再開予定です。

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