2008年7月18日金曜日

さらば野茂投手

日本人メジャーリーガーの先駆け・野茂英雄投手が引退する。日本球界復帰も噂されていたが、メジャーの熾烈な生存競争にボロボロになるまで挑んで、破れ去っていく姿が格好いい。

日本球界からのオファーが本当にあったかどうかは分からないが、野茂投手の意思で、あえて日本球界への復帰を選ばなかったのだと思いたい。

メジャーでダメ出しされた選手が日本球界で通用するほど甘くはない。でも野茂投手の場合、それでも客寄せ効果は絶大だし、その効果のためだけに億単位の年俸を用意する球団はあるだろう。そんな億単位のオファーを蹴ってまで引退を決意したのだと思いたい。

野茂投手がメジャーに挑戦した時、日本のマスコミは気が狂ったように野茂バッシングに終始した。裏切り者という悪役イメージ一色で、まるで犯罪者であるかのような報道が連日続いた。

野村サッチーとか和泉元彌レベルの叩かれかただったような記憶がある。

スッタモンダのメジャー入りだったが、その後の活躍は周知の通り。マスコミの豹変ぶりもそれはそれは笑っちゃうぐらいで、一転してヒーローとして大絶賛。マスコミのいやらしい日和見体質を象徴する「事件」だった。

1年目の大活躍後、帰国した野茂投手に間近で接する機会に恵まれた。東京・プレスセンタービルの日本記者クラブで行われた記者会見に参加した。

早めに会場入りした私は、野茂投手を近くで見られる席を確保した。正直、自分の仕事に直接関係のない記者会見ではあったが、あのときほど必死に会見に没頭したことはない。

野茂バッシングをさかんに展開したスポーツ紙の記者より、一般紙の社会部やなぜか文化部の記者が多く参加していた記憶がある。

その日、野茂投手がさかんに繰り返したのが「とにかく、現場を見に来てください」ということ。記者の質問が、日本球界とメジャーの違いに関する内容が多かったため、口数の少ない彼としては、そう答えるのが最も誠実な答え方だったんだろう。

その日、あわゆくばツーショットの記念写真におさまろうとした私の浅はかなもくろみは、同じ事を考えていたらしい大勢の記者連中と同様、異例の起立禁止という記者クラブ側の伝達で失敗に終わった。まあそんな私の間抜けな話はどうでもいい。

会見を通じて感じた印象は、ただひとつ。
「真摯な職人」ということ。

その後、野茂投手は、幾度となくメジャーを解雇されても、日本球界に背を向けたまま何度もメジャーの土を踏み直した。

そのたびに日本球界復帰という報道が、なかば待望論のように、かつて彼をとことん叩いたスポーツ紙の1面を飾った。それでもメジャーに格好悪いほどしがみついた野茂投手の意地みたいなものが、とてつもなく格好良く感じた。

どんな分野の仕事、どんなポジションの仕事でも「矜持と意地」は凄く大事だ。なかなか保てない、なかなか維持できないものだからこそ、それを貫いた野茂投手は格好いい。

野茂投手には、今後、中途半端に日本球界で監督とかにおさまってほしくない。本格的な独立プロリーグを作るとか、あくまで“はねっかえり”でいてほしい。日本のプロ野球機構にとっての“目の上のタンコブ”のような活躍をしてもらいたい。

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