2008年3月3日月曜日

活字を追って

子供の頃から割と活字を眺めているのが好きで、いまも電車や飛行機での移動には短い距離でも雑誌や本が欠かせない。最近は慌ただしいせいか、じっくりと長編小説をやっつける機会が減ってしまい、雑誌か短編小説など軽いもの専門になった。

家で暇なときは、きまって長風呂。本を持ち込んで、ときにアルコール持参でひきこもる。葉巻は強い香りがこもって大変なことになるので持ち込めないのが残念。

風呂という環境で難しいものは読めないので、サラリとした短編が相棒になる。浅田次郎、重松清あたりがちょうどいい感じ。ほのぼのとノボせる。

旅先のサウナにも、ルール違反だが、小さめの本を持ち込む。先日は、コンビニで購入した高田純次の本をサウナに持ち込み、タオルで一応隠しながら読みふけってみた。

結果、汗ダラダラ、タメ息ぶりぶりのおじさん達を横目にギャハハ笑ってしまい、結構迷惑そうな顔をされた。

読書などという高尚なものではない。何か活字を見ていたいだけで、内容はまったくノンポリ。江原啓之も読む、鹿島茂も読む、白州正子も読む、星新一も読む、司馬遼太郎も読む、東海林さだおも読む。

でも活字を追っている瞬間は、少なくともその世界に入り込んで浮き世を忘れることが出来る。

最近読んだ本で秀逸だったのは、村松友視の「文士の酒、編集者の酒」(ランダムハウス講談社)。酒のうんちくが中途半端に書かれているわけでなく、酒場でのエピソードが中心で、作者の深い観察眼が凄い。流れるような文体もあいまって、いい気分に酔える一冊。

これ以外にも先日、買ったまま読んでなかった本をあれこれ読破する機会があった。印象的だったのは、白川道(とおる)の短編。

ハードボイルド系の作家とは聞いていたが、そっちの分野はあまり興味なかったので、本棚の飾りになったままだった一冊だ。

白川さん(と書いてみても面識があるわけではない。銀座の酒場で何度か見かけたことはあるが、呼び捨ても変なので、さん付けだ)は、過去に投資顧問会社を経営し、バブル時代の光と陰を最前線で見てきた異色の経歴の作家。

いくつか読んだ短編でも、“マネー”は結構重要な素材として扱われる。没落した富豪の葛藤や再興までのあがきなどが生々しく描かれている。市井の人々という素材ではなく、カネと業(ごう)みたいな視点が独特だ。

一応、このブログ、富豪記者とのタイトルなので、浅田次郎作品のスピリチュアルっぽいメルヘンより白川道作品のカネにまつわる権謀術数にサーチライトをあててみた。結構おススメです。でも設定そのものやストーリー展開にちょっと疲れるのも事実。

のんびりとした午後に公園で読むには似合わない。夜更けの書斎でブランデーなどをお供にページをめくるほうが正しい読み方かも。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

富豪記者殿の感覚、共感できるなぁ。
活字のプロが一冊にまとめたものが「本」である、という常識を覆してくれた、僕の愛読書は、ポールオースターが普通のアメリカ人たちのラジオ投稿を編集した「ナショナルストーリープロジェクト」という一冊。普通の人々が書いた文章がこれほどまでに美しく、感動を呼ぶものか、とプロ編集者としてのポールオースターの力量に圧倒されました。旅には最適に一冊かも。

富豪記者 さんのコメント...

確かに普通の人の投稿ほど迫力あるものはないですよね。お下劣なジャンルですが、ネットの投稿をまとめた「死ぬかと思った」シリーズは、超絶的な一般人の下品体験がまとまっていて、いつも隠れて読んでます。美しい文章ではありませんが、「一般人の書き殴る活字」の凄さは、活字商売をしている側からすると脅威です。