2007年12月14日金曜日

相続税が大きく変わる


来年から実施される相続税の減税が固まった。自民党税制調査会がまとめた平成20年度の税制改正大綱(与党税制改正大綱)によって、いわゆる事業承継税制の整備が決まったもので、法案成立自体はまだ先だが、事実上の正式決定だ。注目されるのは中小企業の株式評価に大幅な値引き措置がとられること。

中小企業の、いわゆる自社株は非上場株であり、一般に流通する性質ではない。額面自体はひと株あたり50円とか500円であっても、いざオーナー経営者が亡くなり、相続が起きると相続税を計算する際に、自社株は税務上の評価という作業が必要になる。
会社の所有する資産や業績などが反映されるため、都心部に事業所があれば、その不動産価値もバッチリ反映される。

たとえば大昔からある自社ビルで、処分するにも苦労する物件でも、それが建っている土地の立地次第では、当然、自社株評価は高額になる。

オーナー経営者に集中する自社株の相続であれば、株式の評価額だけでウン億円、ウン十億円になりかねない。キャッシュなら相続した分から払うことも難しくないが、自社株が中心的な財産であれば、納税資金に事欠くことになる。

大雑把かつ乱暴に言えば、「それなら会社を売って現金化してでも税金を納めろ」という趣旨だった中小企業相続の考え方がようやく今回の改正で転換する。

オーナー経営者の子どもによる事業の継続などを条件に、非上場の自社株の相続税評価を大きく減額(80%減)することで、中小企業の事業承継をスムーズにすることが狙いだ。

そもそも農地の相続では昔から同様の考えで、農業を継続するなら農地の相続税が猶予される仕組みになっていた。また、居住用の不動産、いわゆるマイホームの相続についても、一定規模までは相続税評価額が大幅値引きされる制度が用意されている。

税金の専門新聞を発行してきた関係で、中小企業の自社株評価にも同じ考え方を導入すべきという特集やキャンペーンをこれまで幾度となく展開してきた。

ようやくこうした方向性が見えてきたわけだが、改めて税制の考え方の転換に驚異的に時間がかかることを痛感する。

あのバブル時代、相続税の負担に耐えきれずに廃業する企業があった。相続税を原因とする自殺という悲しい事件も存在した。あの頃は東京だけの現象という側面もあり、政治の無力さを露呈した象徴的な現象だったような気がする。

国会議員といえども東京選出組は全体から見ればわずかな存在。実際の都道府県の勢力的なものとはまったく比例していないわけで、人数という物理的な面での発言力の無さはどうにもならない。

おまけに業種団体、業界団体の声をバックに動く構図の政治力学にあって、相続税に苦しむ人々という存在は、特定の業種でもなければ、団体があるわけでもない。構造的に声が届きにくい仕組みになっている。あげくのはてに相続税という限定された対象に関わる問題だけに「金持ちのエゴ」で片付けられ、大衆迎合こそ絶対のマスコミもこの階層の苦悩に光を当てないという悪循環。

相続税イコール妬みの対象になる金持ちという構図は実に短絡的。企業経営者が下流社会の住人とは言わないが、雇用確保にも貢献し、経済の底辺を支え、なにより稼動することで税金を納めるわけだから国にとって「税源」である。差別されて重税を課せられるいわれはない。

これまでのような減額措置のない制度下での相続経験者の中には、自社株の相続税を工面するために銀行から大借金をして、せっせとその返済のために必死に働いている人も少なくない。その姿は、次の世代の起業意欲を削ぎ、ひいては中小企業文化をも崩壊させる。

今回決まったのはあくまで大枠。これから具体的な法案作成が行われ、法案成立後にはより細かな規則や行政機関による通達などが制定される。歴史的に見て企業経営者を税務面から締め付けることに意欲と執念を見せる役人の性質が気になる。

今回の大転換の趣旨に反するような分けの分からない適用条件などを付け加えないよう切に願う。

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